このブログでは、お子さまの習い事をお探しの方と、人生をアップデートしたいと考えられているビジネスパーソンの方に向けて、書道を習うことのメリットをお伝えします。
令和時代に入り、安定と思われていた大企業が終身雇用崩壊を宣言し、次々と大リストラと早期退職制度で人員整理をおこないはじめました。その中で2020年以降も生き残るためのスキルとは?
それは英語でもプログラミングでもなく「書道」です。これから必要とされるスキルは、論理的思考でも問題解決型の思考でもなく、感性であり問題提起型の思考、新しい価値を創造する思考、つまりアート思考です。
アート思考を育む方法、教育のなかでもビジネスと親和性の高いのは「書道」であり、日本には他国には及ばない文化的な厚みをもっていて、その延長線上に「書道」もあります。書道は、英語やプログラミング教育よりも、これからのビジネスや思考の本質を育むのに適したもので、かつ長年の伝統があるのですでにある仕組みを利用するだけでいつでもだれでもどこでも書道を学ぶことができます。
以下では今こそ書道を学ぶべき理由や未来を生きる子供の習い事としておすすめできる理由について解説します。
もくじ
これからの時代に必要なスキルとは?
現在キャリアアップの手段として人気のある英語やプログラミングのスキルも近いうちにAIにとって変わられ、人間の担う仕事が減ってゆきます。そこで近年注目されているのはクリエイティビティ(創造性)です。クリエイティビティこそ人間に残された最後の仕事です。しばらく流行っていたMBA(経営学修士号)留学も最近はMFA(美術学修士号)留学へとシフトしつつあります。今までのビジネスの世界ではロジカル思考でうまくいっていたところがそれだけでは天井にぶつかってしまうことが多くなりました。そこで今注目されているのが新しい価値を創造するアート思考です。もちろんあらゆる活動の基礎になるのはロジカル思考です。これまではロジカル思考を突きつめてゆけば2を3にしたり4や5に改善することができ、それでうまくいっていました。しかしこれからは2を3にする改善だけでは足りず、0(ゼロ)から1(イチ)生み出す創造性が必要になってきました。完璧なロジックを積み上げてもどうしても壁にぶち当たるときがあります。そのときにアート思考、アートの実践を取り入れることで思考をジャンプさせることができるのです。
アートとビジネスはそもそも関係ないではないかと思われるかもしれませんが、それぞれは孤立したものではありません。増村岳史さんは著書『ビジネスの限界はアートで越えろ!』のなかで、アート、デザイン、サイエンス、テクノロジーの関係をわかりやすく図示されています。
(https://newspicks.com/news/3756082/body/の記事より引用)
上の図のようにビジネスでは、アート、デザイン、サイエンス、テクノロジーにはそれぞれ役割があると言います。
ビジネスで必要となる「問題解決」「ロジック」「感性」「問題提起・新たな価値の創造」が4つの軸として取られています。図を見ると「テクノロジー」はロジックで問題解決を図るということがわかります。「サイエンス」はロジックで問題提起・新たな価値の創造を図ります。「デザイン」は感性で問題解決を図り、「アート」は感性で問題提起・新たな価値の創造を図るというイノベーティブな役割を担っていることがわかります。
「書道」でアート思考を育む
これからの時代、必要とされているのは新しい価値を創造するアート思考だとさきほど述べましたが、そのなかでもビジネスともっとも親和性の高いのは「書道」だと考えています。
ビジネスの世界ではよく「守破離」の概念が用いられますが、これはそもそも日本の伝統芸術の修行における過程を示したものです。「守破離」とは、修業においてまず師匠から教わった型を徹底的に「守り」、型を習得したあと自分なりに改善して既存の型を「破り」、さらに修行を積んで型に囚われなくなり型から「離れ」自在となる修行の過程のことです。書道も例外ではありません。日本の伝統芸術と最先端のビジネスは実はつながっているということです。そして書道には、筆と墨と紙さえあればいつでもどこでもその伝統の中に入り実際に体験できるという利点があります。
また(絵を描く行為もそうですが)書道は、アートにかたよったものではなく、ロジックと感性の双方のバランスを高めていく行為でもあります。書道・習字の練習では、まず手本をよく観察して特徴をとらえます。そしてそのイメージを保ち続けて、筆に墨をつけて紙の上に具現化します。ここでおこなわれているのは、よく観察して出力する行為、綿密で正確なインプットとアウトプットの繰り返しです。この繰り返しの中で認知バイアス(思い込み)が排除されてゆきます。理論と実践の絶え間なき反復です。これは全体を統合し、調和させる力であると増村氏は同著で述べています。
書道を習い事としておすすめする3つの理由
以前読売新聞に「未来のジョブズを目指す小学生人気の習い事」(2005年6月29日)という記事がありましたが、どれだけプログラミングを学ぼうとも米アップル創業者スティーブ・ジョブズにはなれません。第一にジョブズは自分でプログラミングをすることはなく、優秀な共同創業者やスタッフに任せていました。第二にジョブズがApple社を説明するときに、「テクノロジーとリベラル・アーツの交差点」という言葉を使っています。これはつまり理系だけでも文系だけでもだめで、そうした学問の垣根を取り払った先に究極の発明があることを説明しています。たしかにプログラミングは実践的な論理的思考を育みますが、プログラミングの習い事だけではだめだということです。多くの人が指摘する通り、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツやフェイスブック創業者マーク・ザッカーバーグを目指すのであればともかく、スティーブ・ジョブズを目指すのであれば、プログラミングでも英語でもなく「書道」を習ったほうがまだ可能性があります(ジョブズのようになるにはそもそも相当困難ですが)。将来に備えて子供にプログラミングを習わせるのは私見では物事を表面的にしか見ていない短絡的な考えだと思います。たしかに現在経済がグローバル化しビジネスにおいて英語が必須となり、プログラミングの技術はあらゆるサービスで必要とされています。しかしビジネス英語は間もなく自動翻訳機にとってかわられ、プログラミング技術はすぐに陳腐化して自動生成にとってかわられることでしょう。その中で残るのは小説の翻訳家(とくに文化の異なる言語間で)や、トップのプログラマーのみでしょう。
子供のプログラミング教育の利点は主に次の3つだと言われています。プログラミング力の養成、論理的思考の養成、ものづくりの楽しさを教えることです。今プログラミングを学んでも将来就職するときにはすでに廃れた技術になっています。全く役に立ちません。目標を定めて計画を立ててゴールに向かって問題を解決していく行為、ルールに則ってコードを組み、トライアンドエラーを繰り返す行為は論理的思考を養います。ただしこれは書道でも同じです。目標である手本を見てどうすれば同じように書けるのか、文字のルールに則って書き、書道の手本をよく見てトライアンドエラーを繰り返します。書道はさらにアート思考も育みます。ものづくりの楽しさは、プログラミングでも書道でも楽しめることでしょう。あとは興味をもつかどうかです。つまり、プログラミングで養えること以上に書道で養えることのほうがはるかに多いということです。
次に、ジョブズを目指すのにプログラミングよりも「書道」を習ったほうがいい理由をあげてみます。
ジョブズと西洋書道
巨大IT企業Apple創業者ジョブズと伝統的な西洋書道(カリグラフィー)には実は深い関係がありました。
ジョブズは大学に入学するものの興味がわかず退学してしまいます。しかし自分の関心のある授業のみもぐりで出席し続けていました。そのひとつがカリグラフィーの授業でした。当時ジョブズの潜っていた大学は全米最高峰のカリグラフィーの講義が受けられたそうで、ジョブズはセリフ書体、ひげ飾り文字、活字を組み合わせた場合のスペースのあけ方や美しく見せる秘訣などを学び、科学ではとらえきれない伝統芸術の西洋書道の世界に魅せられました。
その後アップル社を創立し、ヒット商品を生み出し、マッキントッシュの設計をしていた時のこと、10年前に受講した西洋書道のことを思い出します。
「リード大では当時、全米でおそらくもっとも優れたカリグラフの講義を受けることができました。キャンパス中に貼られているポスターや棚のラベルは手書きの美しいカリグラフで彩られていたのです。退学を決めて必須の授業を受ける必要がなくなったので、カリグラフの講義で学ぼうと思えたのです。ひげ飾り文字を学び、文字を組み合わせた場合のスペースのあけ方も勉強しました。何がカリグラフを美しく見せる秘訣なのか会得しました。科学ではとらえきれない伝統的で芸術的な文字の世界のとりこになったのです」
「もちろん当時は、これがいずれ何かの役に立つとは考えもしなかった。ところが10年後、最初のマッキントッシュを設計していたとき、カリグラフの知識が急によみがえってきたのです。そして、その知識をすべて、マックに注ぎ込みました。美しいフォントを持つ最初のコンピューターの誕生です。もし大学であの講義がなかったら、マックには多様なフォントや字間調整機能も入っていなかったでしょう」
「もし私が退学を決心していなかったら、あのカリグラフの講義に潜り込むことはなかったし、パソコンが現在のようなすばらしいフォントを備えることもなかった。もちろん、当時は先々のために点と点をつなげる意識などありませんでした。しかし、いまふり返ると、将来役立つことを大学でしっかり学んでいたわけです」
「ハングリーであれ、愚か者であれ」ジョブズ氏スピーチ全訳 日本経済新聞
これは、ジョブズが2005年スタンフォード大の卒業式に行った有名なスピーチの一節で、点と点をつなげる(connecting the dots)ことの重要性について話しています。表面的な考えで役に立つ分野のみ学ぶよりも、自分の趣味だったり、偶然興味をもったことのような一見仕事とは何の関係もないことが仕事の役に立つこともあるということです。または今やっている仕事に興味がもてなくても将来別の仕事に就いたときにそれが生きてくることもあります。まったく脈略のないことでも自分という存在のなかで点と点がつながりひとつになる。そうしたつながりの方がよりクリエイティブなものを生み出すということです。プログラミングや英語は何かをするときのきわめて実践的な道具にすぎません。それを使ってクリエイティブな仕事をするには他の人には考えもつかないようなアイデアが必要になります。そのアイデアを導き出す方法のひとつとしてジョブズは「connecting the dots」を紹介しています。
書道でなくてもいいのですが、書道はどうすれば美しくなるかをひたすら試行錯誤するので美的感覚が養われます。これは現代に必要とされているアート思考とも呼応します。
まとめ
書道を習い、テクノロジーにも詳しくなった子供が大きくなったときこそ、スマホに代わるとんでもない発明が日本で生まれるかもしれません。
それは20世紀前半のアヴァンギャルド芸術家が夢見た絵による詩、絵画詩、視覚イメージと言語イメージの完全に融合した新しいコミュニケーションとなるでしょう。この発明は、視覚イメージと言語イメージが継ぎ目なくなめらかに融合している「書」を通してしかなしえないことであり、「書」の可能性でもあります。
参考
増村岳史『ビジネスの限界はアートで越えろ!』ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年
https://honeshabri.hatenablog.com/entry/shodo
https://newspicks.com/news/3756082/body/
https://www.nikkei.com/article/DGXZZO35455660Y1A001C1000000
書道、ペン字レッスンはこちら